置き配[オキハイ]でお願いします

12時間くらい書いて夜12時に寝る。すっきりした夢を見る。精神のゴミ捨てをした記憶を夢日記に書く。ゴミ捨てをした記憶を書きとどめたとしたって、ゴミそのものはもうそこにないのだから、いいのだ。白湯で漢方を飲む。前夜にうるかしておいた米と黒豆を炊く。うるかす、という言葉が好きすぎている。うるかしすぎて逆に具合が悪そうな、水中呼吸困難の水菜と、友達が来た日に分け合って食べたけれど食べ切れないで残っていた赤芯大根とをサラダにする。冷凍の豚肉のみりん醤油で焼き付けたやつと付け合わせて、台湾で買った皿に盛って、食べる。赤芯大根は中が赤くてエッチだと友達が言っていたのを思い出す。

六根清浄、お山は晴天。

インターネットで買ったものを家の前に置いておいてもらえる、誰にも会わないで買い物ができる日が来るよ。と、伝えたい。お布団を天幕がわりにしたテントに閉じこもっていた子供時代の自分に。おまえはおまえの安全を守り続けるのだ。おまえはおまえの絶対を守るのだ、おまえが、守るのだ。その存在をさとらせるな。守られているフリをしてでも。食器を食器洗い機に入れ、35分間モードで回し、食器洗い機が止まるまで少し朝の読書をしてから、酒瓶と魚の瓶詰めの空き瓶をまとめてゴミ捨てに出る。

石鹸と歯ブラシが配達されている。

これで けがれを きよめてください。

六根清浄、お山は晴天。

高くて空気の綺麗なところから来たあの子は、わたしの生まれたきたない海を、くさい、魚の匂いがする、と言った。わたしには、その匂いがわからない。わたしは納豆にもたこ焼きにも何にでもかんにでもシラス干しを入れたがるようなおじいちゃんの孫だからだ、誇り高く。かれは年老いた後も、毎朝、家の周りを爪先立ちでぐるりと回ることを自分に課していた。自分で料理し、家事をやり、体を鍛え、金を貸し、日本経済新聞を読み、古い食べ物を捨てられず、強いフリをして、強いフリをして、強いフリをして、強いフリをして、強いフリをして、強いフリをして、強いフリをして、強いフリをしていつの間にか強く死んだ。

そのあとを生きるわたしの家に、石鹸と歯ブラシが配達されている。

置き配でお願いします。

消費者は販売員を見なかった。消費者は配達員を見なかった。
販売員は消費者を見なかった。配達員は消費者を見なかった。

海の臭気は、生気である。どうか、香水をつけないでほしい。高くて綺麗なところのひとよ。

六根清浄、お山は晴天。

それでは、

海は?